役者紹介インタビュー番外編。最後にインタビューを締め括るのは『みなそこでまってる』演出の大田陽彦。旗揚げ公演ということで、どのような気持ちで作品作りを行なったのか取材しました。『みなそこでまってる』を撮影した舞台写真と共にお楽しみください。
【注意】こちらは配信視聴後の読者を想定して書かれた記事です。多くのネタバレが含まれるため、未視聴の方はご注意ください。
──意気込みはありますか?
大田「演出的にはやりたいことをたくさんやったから、自分が好きなこととか、やりたかったことがどんな感想を抱かれるのか知りたいですね。配信でいろんな人に見てもらえる、せっかくの機会なので。」
──役者の方々にインタビューをしていて、よく「ここの稽古場は良い感じにユルい」と言われていましたが、どういった稽古場になるように心がけていましたか?
大田「話の構成的に、場面ごとに稽古をするとその場面に出てきてない役者を待機させることが多々あって、そういう時は外出許可も出して「好きなことやっていいよ」って一応言ってた。稽古場で役者を待たせるのは演出のやる気不足というか、絶対に器量不足なので、待ち時間は好きにしてもらってた。」
大田「役者に暇させてるのはもったいないし、個人的にはみんなにどんどん外出して欲しかった。みんなあんま外出しなかったけどね(笑)」
大田「ずっと稽古場にいると疲れちゃうから可哀想だし、待ち時間は好きなことして自分が稽古する時になったら集中してもらうことを考えてた。」
──オンとオフの切り替えを役者にさせている、少し効率的な稽古場かもしれませんね。
大田「効率的といえば効率的かもしれない。「他の役者の演技を見ろ」というのは正しいっちゃ正しいと思うけど、ずっと見てるのは疲れちゃうから、基本好きなことをやってていいよって言ってた。」
──その結果「ユルい稽古場」と言われるようになった、というわけですね。
大田「こっちの配慮ですよって話ですよ(笑)」
大田「良く言えば『演出スタイル:ほったらかし』な訳で、お互い気を揉まなかったのかもしれませんね。」
──自分の演出で好きなところはありますか? 大田「脚本の世界観をすごい大事にしたところ。すごい演出脳だから、好きなところじゃないんだけど、役者にも『どう演技するか』じゃなくて『どう見えるか』を結構意識させたつもりではいる。」
大田「構図とかは、静かで整った構図をたくさん作りたかった。個人的にあんまり騒がしい構図は好きじゃなくて。」
──今回は配信のカメラを各方面に設置したということで構図は工夫したそうですね。
大田「なるべくツラを意識させないようにしようっていうのは心掛けてましたね。」
※ツラとは、舞台中央前方を指す舞台用語。客席側の一番前にあたる舞台端のこと。
大田「世界観を作るために、あんまり演劇らしいっていうよりは、お客さんと舞台上の境界線を消すイメージだった。配信を見ているお客さんでも世界観に溶け込みやすくなる工夫はしたつもり。」
──作品中で印象に残っているシーンもしくはセリフはありますか?
大田「?でしょやっぱり。セリフがいい。台本がいい。日本語がいい。」
──お客様に繰り返し見て欲しい、イチオシのポイントはありますか?
大田「構図、照明、世界観。」
大田「ちゃんとがんばった。特に照明の福田りささんにはがんばってもらったし、音響に関しても世界観を全面に押し広げるためにサポートしてくれてると思います。しっかり配信用に調整もしたので、見てくださいって感じですね。」
大田「照明だけじゃなくて音響もちゃんと作りました。手抜きなんかしてないからね。」
──今回の音響は必要な部分だけ集めたような、無駄な音がないように思えますね。
大田「これは好きな演出の話なんだけど、俺はとにかく演劇において、ごちゃついたものがあまり好きではなくて。結構洗練されてて、無駄なものがないものが好き。」
大田「音に関しても最低限のSEとかで済ませるような工夫をしましたね。個人的にはMEなくても充分魅せられたんじゃないかなという自信があります。」
※SEとは、サウンドエフェクトの略。いわゆる効果音のこと。
※MEとは、ミュージックエフェクトの略。背景音楽としてループするBGMとは違い、場面ごとにある特定シーンにのみ使用するために用意される。短いスポット用の楽曲のこと。
大田「スタッフの頑張りで見て欲しいところといえば、衣装・小道具もかわいいよね。個人的に特に小道具のフラペピーノとかUMAカードとかはめっちゃかわいいと思う。」
大田「小道具はこだわったつもり。僕の求めてるものを衣装・小道具の人たちが作り込んでくれてめっちゃ感動した。ありがてえ、ありがてえって感じですね。」
大田「スタッフワークは全部良かった。本当に全部良かった。定期的に全ての部署が集まる会議を設けてたけど、それがとても効果を発揮してたと思う。」
──このインタビューをしている制作もその会議に参加していましたが、毎回の印象としては各部署がやりたいプランを出して、実行しようとした時に『他の部署に干渉するであろう点を見越して解決しよう』とする話し合いが多かったですね。
大田「それもあったし、単純に『世界観の共有』という意味でも役に立っていたと思う。今回配信とは別に写真撮影のためのゲネを行って、その時に都合の合う一部の公演関係者も招待したけど、そこで部署がそれなりに褒められた所以になっていると思う。」
※ゲネとはゲネラルプローべの略。本番同様にリハーサルを行う通し稽古のことを表す。
──今回は部署同士の『合わせ技』のようなものが多かったですね。
大田「そうですね、それぞれの部署が単独行動してなかった感覚はあります。」
大田「舞台×照明×映像に関しては、かなりお互いが緊密に連絡を取り合ってた気がしますね。」
──確かに、天井から電球が垂れている舞台で『舞台×照明×映像』が話し合って、カメラやマイクを通して公開する都合上『配信×照明×音響』が話し合って、パンフレットに描かれた切符を実際に小道具として使うために入稿を行う過程で『衣装・小道具×宣伝美術×制作』が話し合うなど、それぞれの知識を活かしたさまざまな掛け合わせで成り立っていましたね。
大田「結構、緊密なつながりを感じて良かったですね。ひとつでもズレるとバラけるし、スタッフワークの一体感は大事にした。みんな頑張ってくれたなぁ……なんか泣けてくるよね。」
──演出という立場で苦労した点やがんばった点はありますか?
大田「苦労はしてないんだよねぇ……なにもかもに期待しない系なので。もっと自分ががんばれたかもなぁって思うことはあるけど。」
大田「がんばったこと……というか、これも役者にやらせたことなんだけど、とにかく『役者自身に考えさせる』ようにした。考える方法はワークショップで伝えて、俺があーしろこーしろって言うんじゃなくて、全部を役者自身で考えられるようにしようかなって毎回思ってた。考える方法は教えるから、あとは自由にしてくださいって感じ。」
大田「ワークショップでは短い台本を渡して「こういうやり方もできるよね」「こういう考え方もできるよね」って示すとかしてた。」
──インタビュー外でも役者の方々が「大田はすごい」と言うことがあって、なぜかを聞くと『役者を成長させてくれるからすごい』『端的に一貫性を持って聞いたことを答えてくれるからすごい』と答えていました。一貫性を持たせることにも取り組んでいたんですか?
大田「そうだね、パッと思いついた演出をしたくなくて、ある程度の思想に基づいた演出をしているつもりだったので、そういう思いつきでものを言うタイプではないよっていうのを伝えたかった。」
大田「だから何か、構図の変更とかを出すときは「ここをこうするって言ったっけ?」って毎回確認してた。自分のやりたいこと自体に一貫性があったから。」
──今回の反省点はありますか?
大田「やりたいことをやったなって配信を撮り終わった瞬間は思ったんだけど、実はそうでもないんじゃないかっていうのをすごい感じて。反省点はないんだけど。」
大田「昔から反省するの苦手なんだよなぁ。反省って何?って思っちゃうんだよね。」
大田「でも、役者ともう少し話せばよかったなって思う。普通に役者と仲良くなりたかった。役に関する話ではなくて、日常的にする会話をもっとすればよかったな。」
大田「自分から話しかけるのは苦手だけど、流石に最低限は話しかけた方がいいですね。」
──入団希望者の方はぜひ話しかけてあげてください……
大田「ねー、ぜひ話しかけてください。というか劇団ゲスワークはみんなに入って欲しいですね。うんうん。」
──劇団ゲスワークってどんな劇団なんですか?
大田「どんな劇団かって聞かれると困るけど、単純に大田くんがやりたいことをたくさんやるってだけです。」
大田「でも今回は演出プランをめっちゃ採用したし、考え方を提示してその考え方に則って「これをやってみたい」「こうしたい」っていうのがあれば基本全部採用した。それが稽古場はユルいって言われるようになった理由かもしれない。あーしろこーしろ言わなかったけど、それはユルいじゃなくてちゃんとお前は俺の手のひらで動かされてんだぞって言いたいですね。嘘です。そんなことないですよ。」
大田「演出が多くの指示を出すよりも役者がプランを出すのが一番美しいから。体裁を最後にちょこっと整えるのが演出の仕事だと僕は思ってる。マジで演出の仕事は交通整理だから。」
大田「終盤の稽古は役者が自分で考えられるようになってて、すごい嬉しかったですね。」
大田「だから反省点はあんまりないですね。当初の予定通りになったことが多かった。うまくいかなかった点はそんなにない気がする。わかんないけど、なんかうまくいかなかった点がモヤっとある程度。」
──スタッフの方々も役者の方々もみなさんがんばっていましたが、それでもうまくいかなかった点があるんですか?
大田「わかんない。けど、面白かったのかなってすぐ思っちゃう。クオリティ重視人間なのもあって大丈夫だったのかなぁって思っちゃう。それなりに面白くできたって自信を持ってお届けできるんだけど、多分俺もみんなももっと出来たなって。」
大田「演劇って大体そうなんだけど、終わった瞬間はもっと出来たなって毎回思ってしまう。」
大田「まあ誰も揉めることなかったし、よかったな。」
大田陽彦さんありがとうございました。
劇団ゲスワーク第一回公演『みなそこでまってる』のアーカイブ期間は2022年3月26日20:00までです。アーカイブは何度でも見返すことができますので、インタビューを読んだ上でもう一度見たくなった方は、ページ下の公演情報に書かれたURLからご覧ください。
みなさまにとって『みなそこでまってる』が心に残る作品になりますと幸いです。
取材・文/相原千乃 写真/榮野川文樺
公演情報
劇団ゲスワーク 配信公演
『みなそこでまってる』
演出 大田陽彦
脚本 吉原有美歩
3月19日(土) 18:00〜 配信開始
(配信後一週間のアーカイブ有り)
本公演はチケットサイト「teket」イベントページにて配信を行います。
配信開始後、下記リンクからご視聴ください。
URL:https://teket.jp/2738/10434
※配信はアーカイブ終了まで何度でもご視聴いただけます。
※アーカイブ期間は3月26日 20:00までです。
○料金
無料カンパ制(応援チケット方式)
○お問い合わせ
HP:https://gekidanconicio.wixsite.com/guesswork/contact
Mail:guesswork.info@gmail.com
Twitter:@gekidan_gesuwa
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